ソムリエール
ワイン愛だけは一人前のソムリエール・樹カナから学ぶ“ワイン道”
自身の名前に込められた両親の“願い”
日常の何気ない一時から特別な時間まで多くのシチュエーションで私たちの生活に彩りを与えてくれるワイン。 今でこそ日本でもメジャーなお酒になりましたが、実は昭和時代中頃までは主に一部の愛好家たちの間で飲まれていたお酒で、庶民はあまり口にしていなかったんだとか。 本作はそんなワインの歴史や銘柄、飲み方などを誰でも分かりやすく解説してくれているワイン初心者にはぴったりの一作。 本作の主人公・樹カナは幼い頃に両親を事故で亡くし、スイスの孤児院でぶどうを栽培しながらワインの勉強をしている女性です。カナというのはイエス・キリストが水をぶどう酒に変えた「カナの婚宴」の舞台になった村の名前に由来しています。 カナはジョン・スミスという篤志家の援助によってフランスにある大学のワイン醸造科を卒業し、孤児院の運営費をまかなうためのワインを作りながら生活していました。けれど、ある日ジョン・スミスから東京のフレンチレストラン『エスポワール』でソムリエとして働かなければ孤児院への援助を打ち切ると告げられ…。 カナは一念発起して単身東京へと渡るのでした。 幼い頃からぶどう畑とともに育ち、大学に通いながらワインショップで働くなどワインに親しんできたカナは知識だけは相当なもので、ワインの味を鑑定するテイスティング能力は超一流。銘柄やヴィンテージまでピタリと当てる正確性は『エスポワール』の支配人で天才ソムリエの片瀬丈も認めるほど。 …しかし!深いワイン愛ゆえに、高級なワインこそ至高という考えを持つ客や知識をひけらかす客につっかかっていき説教をするなど、ソムリエとして大事な接客能力はまだまだ未熟。片瀬から「お前は人を見ていない」といわれ、『エスポワール』をクビに…。 その後、とある縁から元有名ワインバー『V・B(ヴァンブルー)』の店長を任され、試行錯誤しながらソムリエとしての能力を開花させていくカナ。辛辣なグルメ評論家の源田から「未熟ながらもスタッフの熱意だけは認める」と評され、『V・B』を再び名店へと押し上げます。 ――そんなソムリエ人生を送るカナでしたが、とうとう、それまであやふやにしていた自分の生い立ちという壁にぶつかります。 ワイン界において、「樹」という名が特別なものだというのはこれまで出会った人たちから教えられていたのですが、父親である樹光一が何をしようとしていたのかまでは誰も教えてくれず…。 カナは父親の軌跡をたどりながら、自身の宿命に立ち向かって行くのですが…その物語の結末はぜひ、本作を読んで確かめてみてください。
人と人との関係を橋渡しする“ワイン”
閑話休題。本作にはワインの王様『ロマネ・コンティ』、フランスの英雄ナポレオンが愛飲した『ジュヴレ・シャンベルタン』、ボルドー5大シャトーに数えられる『シャトー・マルゴー』や『シャトー・オー・ブリオン』、そういった有名どころ以外にも、ワイン造りの新興国を意味する『ニューワールド』に分類される、カリフォルニアワインやアルゼンチンワインなど実に多くのワインが登場。 銘柄以外にも、そのワインが誰によって、何のために、どのような環境下で作られたものなのか、作り手がそのワインに込めた思いまでも知ることができます。 また、巻末には堀賢一氏によるコラム「ワインの自由」が収録されており、漫画でありながら本格的なワインの入門書としての側面も。 さて、ワインを学ぶとなると、銘柄や品種など覚えることがたくさんあり、一朝一夕に身につくものではありません。ですが、ワインを知っているというのはそれだけで武器になるのです。 例えば外交。 接待側の国がどんなワインを振る舞うかによって交渉が成功するか失敗するかが決まるとまでいわれています。そこまで大きな舞台でなくとも、会社の接待で相手方の担当者がワイン通だった場合、下手なワインを頼んでしまうと取り返しのつかないことになってしまう可能性もあるかも。 ですが逆にいえば、ワインの知識があれば、交渉ごとを円滑に進めることだってできるというわけです! また、バースデーヴィンテージのワイン(誕生年が同じワイン)は贈り物として最適。もし家族や恋人から自分が生まれた年に作られたワインなんかもらったら、とても愛されていると感じませんか? ワインという飲み物はただ単にぶどうを絞ったお酒ではなく、人々の関係を取り持ってくれる“橋”でもあるということですね。 そう考えると、社会でうまく生きていくうえで、ワインの知識はあるに越したことはないと思いませんか? 本作はワイン初心者がワインを知るきっかけとして、また、ワイン好きがさらにワインを好きになるためにぜひ読んでもらいたい一作。 もしお気に入りのワインが見つかったなら、ワインショップやレストランに足を運び、実際に味を確かめてみてくださいね!