1. ヒトサラ
  2. 石川、富山、福井、新潟 シェフもオススメするおいしい北陸へ
  3. グルメマンガが教えてくれた大切なこと
  4. 『ワカコ酒』/ごく普通のOLが身に付けられる“粋なたたずまい”は「ひとり酒」にアリ

ワカコ酒

ごく普通のOLが身に付けられる“粋なたたずまい”は「ひとり酒」にアリ

作品データ/『ワカコ酒』 作者:新久千映 『月刊コミックゼノン』『WEBコミックぜにょん』連載中、既刊7巻(2016年8月現在)

村崎ワカコから学ぶ“ひとり酒のすゝめ”

 ひとり酒は男がするもの…なんて古い価値観は捨てましょう。そんな時代はもうとっくに終わりました!

 今では女性がひとりで居酒屋に行ってお酒を楽しむことが珍しくなく、焼肉に行ってビール片手にお肉を頬張る女性や、行きつけのお店でストレートの焼酎を頼む女性を見かけたりもしますよね。

 本作の主人公・村崎ワカコ(26歳)は口数が多いタイプではないながらも、ごく普通に日々の仕事をこなし、ごく普通に食べ過ぎで体重が増えることを気にする、ごく普通のOLです。

 でも、ただひとつ違っていたのは…ワカコは無類の「酒呑み」だったのです!“ひとり酒”をいとわないレベルに!

 ワカコにとって、仕事帰りに酒場に寄ってお酒を片手に肴を食べることが至上の喜びですが、グルメマンガで定番のお酒や料理に関するうんちくを語ることもなく、ただただ幸せそうにひとりの時間を楽しむのです。

 頼むのは1品の料理と1杯のお酒が原則。あれこれ食べながらお酒を飲むのではく、1品の料理をゆっくり時間をかけて食べ、口に残った料理の風味が消える前にお酒を流し込んではまた料理へ箸を伸ばす――。

 お酒とつまみの相性が最高だったときは、至福の表情を浮かべ「ぷしゅー」という吐息を漏らす――。

 ワカコは食通といえるほど料理やお酒に関する知識はありません。ジャンクな食べ物も大好きですし、高いお店よりも庶民的なお店を好みます。けれど、一皿の料理に向き合いお酒を楽しむ姿は、とても26歳とは思えないほど精神的な成熟を感じさせます。

 成熟しすぎていい意味で“おやじ臭い”ということもいえるかもしれません。かっこよくいえば円熟です、メローです。

 ひとりで飲んでいるワカコを怪訝そうに見つめる人もいます。さみしそうだからとちょっかいをかけてくる酔っ払いもいます。しかしワカコは気にも留めず、ただ黙々とお酒を飲み続けます。

 女性のひとり客が珍しくなくなったとはいえ、まだまだ抵抗感のある人は多いでしょう。ですがひとり酒には一度体験したら病みつきになるほど高い中毒性があるのかもしれませんよ。

 ひとりで酒場に行っても何を注文すれば?どうやって過ごせばいいの?

 本作はそんなひとり酒初心者の方が抱く疑問に全て答えてくれるはずです。
      

――それは人生に“深み”をプラスする

 ワカコにとってひとり酒は、いろいろな料理とお酒の組み合わせを試す楽しい一時であるとともに、自分自身と向き合い人生について考える孤独な時間でもあります。

 ワカコが年齢に見合わず達観して見えるのもひとり酒によるものが大きいんでしょうね。

『ワカコ酒』には仕事やプライベートで役に立つエッセンスが数多く盛り込まれています。

 例えば、「鶏わさ」を食べながら強めの芋焼酎を飲むシーン。

「鶏わさ」は半生状態の鶏肉にわさびをつけて食べるたたき料理ですが、それに対してワカコの同僚は「たたきって中途半端だよなー」とそのよさを理解しようとしません。確かにほぼ生なので、好まない人も少なくないのでしょう。

 けれど「鶏わさ」は火が完全に通っていない状態で食べるからこそ、“にちっ”とした生の部分と火が通っている“パサパサ”の部分で二重の食感が味わえるんです。この様子をワカコは「グレーが一番心地よい そんな時もある」と評するのです。

 世の中には白黒はっきりさせないと気が済まないタイプの人がいますよね。でも、物事は白と黒に二分できることばかりではありません。どっちつかずであいまいなことがあっていい。きっちり分けすぎるのも窮屈になってしまうと思いませんか?

 そうやって考えると、「グレーが一番心地よい」とは何と趣(おもむき)のある表現でしょう…!

 また、職場で上司に「誰がやっても同じなんだからさ」と嫌味をいわれたワカコは仕事の帰りに居酒屋で「板わさ」を注文。

「板わさ」は板かまぼこにわさびを添えただけのシンプルな料理。作ろうと思えば誰でも作れ、どこで食べても一見同じように思えます。しかし、シンプルだからこそ工夫が見えやすい料理でもあります。

 ワカコが立ち寄ったお店では、かまぼこに切り込みを入れ、わさびときゅうりを挟んで独自性を出していました。そのちょっとした工夫が客を楽しませ、お店をよくしていくわけです。そう考えると少しの工夫も馬鹿にはできませんね。

 誰がやっても同じ。だからこそどこかで工夫をして自分の色を出す。そうやって地道に工夫を積み重ねていくことで誰にでもできる仕事から、“あの人に任せた方がいい”という仕事になっていく…と考えることだってできるはず。

 ワカコはこんなふうにひとり酒をしながらいろいろな学びを発見していきます。

 恋人や友達とワイワイ食事をするのは確かに楽しい時間です。ただ、たまにはひとりで居酒屋のカウンターに座り、自分自身と語らいながらしっぽりと杯を傾けるのもきっと有意義な時間になるのではないでしょうか。

 そして、そのたたずまいは間違いなく、“粋”なはずです。
      

<文/日下部貴士(A4studio)>

バックナンバー

バックナンバー

Back to Top