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静岡のトップレストランs 全国の食通がいま、
静岡を目指すワケ
Hitosara special

いまレストランシーンを最も賑わせているエリアとは!?
そう食通に聞いて真っ先に挙がるのが、
静岡ではないだろうか。天ぷら、鰻、茶懐石にフレンチ……。
いまを面白くする静岡の5つのトップレストラン。
全国の美食家がいま静岡を目指す理由がここにある。

Photographs by Jiro Otani , Mami Hashimoto /
Text by Shinji Yoshida , Natsuki Shigihara /
Design by form and craft Inc.

  • 駿河湾を代表する海の幸のひとつが『甘鯛』。まず低温の油でウロコを立ち上げ、
    次いで急激に温度を上げてパリッと仕上げる。衣を纏うのは身の部分だけ

    てんぷら 成生

    駿河湾の旬魚を通して伝える
    天ぷらという調理法の、無限の可能性

     食通たちの間で【てんぷら 成生】の名が取り沙汰されるようになって久しい。駿河湾の旬を伝える四季折々の素材、天ぷらという料理の常識を覆す味と食感の多様性と奥深さ。わずか8席のカウンターは常に争奪戦だ。

     店は2021年3月、新静岡駅近くのわずか13坪の店から、500年以上続く庭園を備えた平屋建ての店舗に移転した。窓外に望む美しい庭園、延べ1200人の職人の手が入ったという重厚な建築。まだ来訪叶わぬ人にとって、いっそう遠い存在になってしまったように思えるかもしれない。

     しかし店主・志村剛生氏の穏やかな人柄に触れると、ここが無駄な緊張とは無縁であることに気づくだろう。コースは、まずは胃を温めるスープで始まり、低温の油にサッと通したお造りに続く。天ぷらは、塩で味わうもの、タレを塗るもの、直接手渡しされるものなど変化に富んだ内容。添えられる志村氏の解説は決して押し付けがましくなく、しかし地元静岡への愛情と誇りに溢れている。気づけば誰もが馴染みの店のようにくつろぎ、志村氏の天ぷらの世界に浸るのだ。

     移転を経て変わったことを問うと、冷蔵庫が2倍になって粉をよりしっかり冷やせること、火力が増したことにより揚げ方の幅が広がったこと、締めのご飯を薪釜で炊けるようになったことなど、具体的な変化がいろいろ。しかし近年の一番大きな変化は、漁師や生産者の方々の意識だという。
    「魚の締め方、保存法をしっかりと考えてくれているため、以前とは魚の水分量が違います。そうすると仕入れる、運ぶ、捌くという部分も、そして料理人の調理方法も変わってくる。静岡の総合力は間違いなく上がっています」

     志村氏が繰り返し口にする「総合力」との言葉。それはつまり、生産者や仲買人、店のスタッフたちへの信頼の証でもある。【てんぷら 成生】の名が揺るがぬ名声とともに語られるのは、そんな姿勢の賜物なのかもしれない。

    • 穏やかな志村氏だが、油の前に立つと途端に凛とした雰囲気に変わる
    • 大井川のベビーコーンは、揚げたてを手渡しで。甘みと香ばしさが圧巻
    • 窓の外に広がるのは、室町時代後期に活躍した武将、太田道灌が整備したという由緒正しき庭園
    足を運ぶべき理由

    低温の油で煮るように揚げる、鍋肌に押し付け焼くように揚げる、水分を閉じ込めながら蒸すように揚げる。素材によって技術を使い分ける天ぷらは、まさに唯一無二。さらに志村氏をして「天才的」といわしめるソムリエの、料理の温度帯まで考慮したワインセレクトが、またとない時間を演出する。

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