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東京のいまを熱くする 一流の系譜を継承する
レストラン
Hitosara special

哲学、技術、矜持、精神……。
一流のDNAが若き世代へと受け継がれ、新たな世界を切り開く。
いつの時代にもそうした新たな血潮がレストランシーンを面白くしてきた。
フレンチ、中華、イタリアン、薪焼き、串揚げ。
一流の系譜を継承する、東京レストランの最前線を紹介する。

Photographs by Takuya Suzuki , Jiro Otani , Shinjo Arai /
Text by Natsuki Shigihara , Koji Okano , Ayano Yoshida , Maria Kawashima , Ai Ozaki
Design by form and craft Inc.

  • トスカーナ州の海沿いの町、リヴォルノ名物の漁師料理『カチュッコ』を湯浅一生氏の解釈で再構築した一品。
    本来は新鮮な海の幸をごった煮にするイタリアの家庭料理だが、日本各地の魚介を用い魯山人の器に品よく仕立てた

    湯浅一生研究所

    日本の食材が紡ぎ出す渾身のひと皿
    イタリアン以上のイタリアンへ

     「目指すのは“イタリアでは食べられないイタリア料理”。それこそが日本でリストランテを開く意義だと思っています」

     去る11月13日、恵比寿に自身の名を冠した店をオープンしたばかりの湯浅一生氏はそう語り目を輝かせた。命題として掲げたのは、日本の食材を日本の美しい器で提供すること。それでいてひとたび口にすると、イタリアの土地土地の味が輪郭を持って浮かび上がってくるようなひと皿を追求することだ。

     そのために一等大事にしているのが、イタリアの修業先で学んだ味づくりだ。たとえばトスカーナ州の港町、リヴォルノ流のだしの取り方。甲殻類は臭みを取るため高温で、魚はコトコトゆっくり、対して貝は種類に合わせて時間を調整したりとそれぞれ3つの鍋を使い分けて別々に行う。そんな根幹の部分を守った上で、リヴォルノ風漁師鍋『カチュッコ』には「濃厚でドロッとしたニュアンスが出せる、北海道のじゃこ海老を入れよう」、「トスカーナではホウボウが定番だけど、産地まで出向いて見つけた対馬のクエを」などと、本来イタリアでは使わない食材を用いて日本ならではのイタリアンを構築していく。その工程のなかでこそ、単なる現地の味の再現に留まらない、湯浅氏のオリジナリティーが発現するのだ。

     基礎に忠実に、研ぎ澄ます。それは、イタリアからの帰国後に研鑽を積んだ名店【SALONE2007】で叩き込まれた精神でもある。ただ美味しいだけのイタリアンはつくれて当たり前。そこに湯浅一生という料理人のフィルターを通して、自身の想いをのせないと店で出せるレベルには到底達しない。系列店の【BIODINAMICO】で5年間シェフを務めた際も、その教訓を胸に精進を重ねた。

     そして、辿り着いたひとつの答えを【湯浅一生研究所】で供する一品一品で表現する。これまでの自分、そしてイタリア本場の味をも超えるために。湯浅氏の生涯をかけた研究は、まだ始まったばかりだ。

    • イタリア中北部で約2年間修業した湯浅氏曰く「食材の旨みをシンプルに引き出すのがイタリア料理の魅力」
    • 『イカ墨のファルファッレ』は現地ではマテ貝を使うが、湯浅氏は蝦夷鮑をチョイス。仕上げには春菊のスプラウトを
    • ブルゴーニュを中心に、イタリア各地域の幅広い料理の味わいを引き立たせられるようなワインをセレクト
    継承する一流の系譜

    イタリアから帰国した湯浅氏が、自身の料理を見つめ直す契機となったのが【SALONE2007】での厳しい指導だった。現在サローネグループのエグゼクティブ・シェフを務める樋口敬洋氏より受け継いだ「イタリアンのベースは守りつつ、料理人の想いをのせたオリジナルの味に昇華させる」精神は、今もなお湯浅氏の胸に刻み込まれている。

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