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あの名シェフから若き俊英まで 新たな時代を築く
東京中華を追う!
Hitosara special

ここ数年でグルメ界を大きく賑わせているのが、続々と誕生する中国料理店。
その勢いは令和になっても変わらず、2019年も新店ラッシュとなった。
しかも、その多くは中国料理の可能性を示す個性派ばかりだから面白い。
新たな時代の幕開けを予感させる、中国料理の新鋭を取材した。

Photographs by Noriko Yoneyama , Takuya Suzuki , Shinjo Arai , Mami Hashimoto
Text by Shinji Yoshida , Ai Ozaki , Maria Kawashima / Design by form and craft Inc.

  • 店のスペシャリテ、『脆皮炸子鶏(クリスピーチキン)』。
    龍崗鶏(ロンコンカイ)と呼ばれる香港の短足種のメス鶏を使用。何度も油を回しかけることでサクサクとクリスピーな食感に

    SOUTH LAB 南方 サウスラボみなかた

    新鮮な“南”の風を感じる
    国境を超えた料理の親和性

     パチパチ、ジュワ〜。
     小気味良い音を響かせながら、煮えたぎる鍋の上、幾度となくお玉で油を浴びせられる丸鶏。10分ほど経ち、艶やかな飴色に色づくと、芳しい香りを放ちながら、まな板の上へ運ばれていく。
     タンタン、ザクッ!
     今度は勢いよく包丁が振り下ろされ、骨ごとカット。かくしての【SOUTH LAB 南方】のスペシャリテ、『脆皮炸子鶏(クリスピーチキン)』は出来上がるのである。
     「じっくり焼くから皮はパリパリ、中は柔らかくジューシー。骨に近い、背中の部分が一番美味しいよ」と屈託のない笑顔で教えてくれたのは、香港出身の料理長・覃志光(チャム チイコウ)氏。”トミーさん“の愛称で親しまれているが、かつて「アイランド シャングリ・ラ 香港」の【夏宮】や【福臨門酒家】で腕を振るった輝かしいキャリアの持ち主だ。そんな覃氏に声をかけたのが、大の香港通として知られる写真家の菊地和男氏。何を隠そう、外苑前にあった今はなき名店【楽記】の仕掛け人でもある彼こそが、【SOUTH LAB 南方】のプロデューサーなのだ。
     そんな香港のスペシャリストであるふたりが手を組んだわけだが、さらなる新境地を目指すべく、「広東料理と潮州料理をベースとしながら、ベトナムやタイ、シンガポールなど南方の要素を盛り込みたい」という。たしかにメニューを見るとガパオやジャスミンライスといった、ジャンルの垣根を越えたエスニック料理が目を引く。パクチーやハーブなどのアジア野菜を千葉の自社農園で栽培し、料理に用いているのも新たな試みだ。
     そして、なんと酒は紹興酒を置かず、ワインとビールのみという点が実に痛快。料理には発酵食材を使ったものが多く、それが「クセのあるワインによく合う」とのことで、個性豊かなワインをペアリングで楽しめるのも醍醐味のひとつといえよう。
     11月から、豆腐を麹と塩水につけて発酵させた腐乳のスープで山羊を4時間煮込む鍋が新メニューとしてスタートした。味付けのベースは潮州料理ながら、山羊を鍋にしたあたりベトナムのエッセンスが感じられる。今後、どんな進化を果たすか。まだまだ南方の研究は始まったばかりだ。

    • 香港出身の料理長、覃志光氏。料理が運ばれてきた瞬間、口にした瞬間の客のリアクションを見るのが何より好き、と顔をほころばせる
    • 中国でよく食される、発酵させた干し魚「ハムユイ」。ここではミナミコノシロという魚を使った高級品を香港から仕入れる
    • 『咸魚肉餅(塩漬け魚の蒸しハンバーグ)』は広東定番の家庭料理。ハムユイ独特の香りと塩辛さがクセになる味わいだ

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