1. ヒトサラ
  2. ヒトサラSpecial
  3. 浪速・美味礼讃

日本料理からイノベーティブまで 浪速・美味礼讃 Hitosara special

東京とは異なるベクトルで、独自の食文化を形成する大阪。
それはガストロノミーにおいても同じだろうか?
大阪に根を下ろし、大阪に愛されてきた名店の実力はいかに。
日本料理からスパニッシュ、イノベーティブまで、
ヒトサラ編集部が大阪の5名店に迫った!

Photographs by Takuya Suzuki / Text by Shinji Yoshida / Design by form and craft Inc.

  • 『ホタルイカとグリーンアスパラガスのソース リングイネ』。
    パスタの下にホタルイカをまるごとつぶしたペーストを忍ばせた。仕上げに柚子胡椒パウダーをひと振り

    Fujiya1935 フジヤ1935

    外界をシャットダウンした空間
    舌と記憶が美味しさを呼び覚ます

     扉を開け、アプローチを抜けた先に待つのは、照明を限りなく落としたウェイティングルーム。その片隅に、水盤の上で水玉が弧を描くようにして滑っていくアートが飾られ、幻想的な雰囲気を漂わせている。そんな部屋で季節のお茶をもてなされ、心を落ち着かせてからオープンキッチンの脇を抜けて、2階の客席へ案内されるとどうだろう。心はすでに【Fujiya1935】の世界に染められ始めているはずだ。
     そうして出される料理のテーマは「季節と記憶の食卓」。シェフの藤原哲也氏は、修業時代、スペイン・カタルーニャ地方にあるレストラン【レスグアルド】にて、脳神経外科のシェフとして知られるミゲル・サンチェス・ロメラ氏に師事。現在も大切にする哲学のひとつ、「舌で感じ、脳で集約した味わいに、食べ手の経験や知識が結びつき、初めて美味しいと感じる」という教えをそこで学んだ。それは、普段、我々が美味しさを判別していると考える舌は、センサーでしかないということだ。
     だから藤原氏は、より季節感を大切にし、記憶と結びつけることができる料理をコンセプトを掲げる。もちろん、客席へ案内するまでのアプローチもそのための演出のひとつだろう。
     感度を高められてから味わう料理は食べ手の記憶を呼び覚まし、美味しさへと結びついていく。藁を自然発酵させ、その熱で栽培するという大阪野菜のひとつ「三島独活」は、スチームしたミル貝、ふきのとうのソースと合わせ、さらに野草をちりばめることで、春の芽吹きを感じさせるひと皿に。一方で、ホタルイカのパスタは、イカスミやトマトペースト、アサリ、ホタテの貝柱で仕立てたソースに乳化させた後、ホタルイカのペーストを忍ばせ、スチームしたホタルイカをたっぷり。濃厚な旨味を絡ませることで、また違う春を表現した。
     感性を試されているようで、それでいて食べて楽しささえ覚える料理。これこそ【Fujiya1935】の真骨頂だろう。

    • 大阪野菜のひとつである「三島独活」は、この店に春の到来を告げる。独活の豊かな香りと食感に、ふきのとうの優しい苦味が寄り添う
    • 2階のテーブル席。ナチュラルな素材を使い、【Fujiya1935】の世界観を演出。同じフロアに8名まで利用できる個室も用意されている
    • 4代に渡る料理人一家に生まれたシェフの藤原哲也氏。2003年にスペインから帰国し、先代の店を引き継ぎ【Fujiya1935】をオープン

Back to Top