親方が中心となった劇場型カウンターで江戸前の鮨を楽しむ
「本当は60歳で引退と決めていたんです。けれど、もし続けるなら自分が好きな場所で鮨を握りたかった」
札幌にあるミシュランの一ツ星に輝く店を2代目に譲り、2017年2月にこの地に店を開いた理由には、店主・川崎武司氏の昔からのそんな想いからだった。
「カウンターの楽しさを知ってもらうことが自らの仕事」と話す川崎氏は、自ら思い描く鮨屋の理想像を札幌時代と変えていない。むしろ、自分が好きなハワイという場所だからこそ、“楽しさを知ってもらいたい”という想いはより強くなった。だから、煮切りを塗った鮨を醤油につけて食べる客がいたとしても、川崎氏はあえて笑顔で見過ごすのだという。
「最低限のマナーだけ守っていただけたらいい。注意して客が構えてしまうくらいなら、楽しいまま食べてほしいんです」
その上で、もちろん味にもこだわる。魚は週に2回、築地から直送。ハワイ産のネタは、コナで日本人が養殖する蝦夷アワビのみと、素材は徹底して日本から仕入れる。そして、職人の仕事を施し、凛とした鮨を握る。
「江戸前は、『削る』仕事です。締めることでサヨリは水分を、コハダは臭みを削る。タコはじっくりと煮ることで、硬さを削ります」
高級店ではあるが、うんちくを語るような店ではない。親方がつなぎ役となってカウンターがひとつの舞台のように、はじめての客同士が食の時間を共有する。一度体験すれば、美味しさとともにその“楽しさ”がクセになるだろう。